しんらんさま~お得度の夜~

ついにしんらんさまは目的地、青蓮院にたどり着きました。夜も更け、あたりはすっかり真っ暗。叔父さんが門前の僧侶に話しを通し、しんらんさまと叔父さんは青蓮院の中に足を踏み入れました。奥のある一室に通されると、そこにはそのお寺で一番偉いであろう、なんとも風格のあるお坊さんが座っていました。この人が、慈円(じえん)というお坊さん。後に天台座主(当時の天台宗で一番偉いお坊さん)を4度つとめた、お坊さんでした。『ようこそ、お二人でここまでおいでなさった。坊やもよく頑張ったね。お坊さんになることは、世間で暮らすことよりももしかしたら大変かもしれないが、よく御決心なされた。しかし、今夜はもう遅いから奥の間でお二人ともお休みなされ。お得度の儀はあしたにして、きょうはもう…』と慈円さんが仰ると、『おまちください』と小さな、声。しかしそこにいる全員がはっきりと聞き取れる透き通った声でしんらんさまがこう告げられたのです。『あすありと おもうこころのあだざくら よわにあらしのふかぬものかは』と。
おおぉ……。場にいた大人たちはびっくりです。『これ、おまえ。慈円さまに向かってなにをいきなり』『いや、ええんじゃ。坊や、もう一度そのうたの意味をくわしく教えておくれ』と慈円さん。『しつれいしました。じえんさま。私はさくらが好きです。さくらはとても綺麗です。しかし、あらしが来ると一晩でちりぢりになってしまいます。わたしも一枚のはなびらのように、はかない身であります。あしたがある、とおもわず、きょう、いまお得度の儀をやっていただきとうござりまする』……な、なんと。9歳の子がこれを言うか…。このうたに大変感銘を受けた慈円さまは『おおい!!お剃刀(かみそり)の準備じゃ!!坊やの得度をいますぐやるぞ』と周りにいる僧侶たちに告げ、早速真夜中のお得度式が始まったのであります。
 会話のやりとりは完全に私のイメージですが(笑)しんらんさまもさくらが好きだったかどうかはわかりませんが、9歳の子がはっとするような深いうたを残された、と『あすありと~』のうたは、しんらんさまの御生涯を語るうえでとても大事な伝承としてつたわっております。御絵伝というしんらんさまの御生涯を描かれたお軸には、灯の中で慈円さんによってお得度の儀が執り行われている場面が描き出されております。
 いやぁ~。『明日がある』と思うのは、ときに大事な『今』をおろそかにしてしまうことがあるのかも。
 ちなみに僕がしんらんさまと同じ9歳の時は、平成初期の当時流れていたCM、丸〇屋のふりかけのうたをうたっていたような記憶があります。
 まっ、まっ、まーる〇や~まーる〇や~であったーるー🎵 このうた知ってる人がいたら、是非ともだちになりましょう(笑)